技術者倫理の事例(フォード・ピント事件)

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費用便益分析、費用対効果

商品を製造・販売する企業は、最小限の費用で最大限の効果(利潤)を獲得することを目指します(経済性あるいは効率性の追求)。

製品を輸出する企業は、国内向け製品のみ扱う企業に比べて、輸送費や各種手数料など費用がかさむため、海外での現地生産に切り替えた方が利潤を確保しやすくなるのではないかと、つねに頭を悩ませているものです。

また為替レートの変動による利益変動もあるため、外国為替相場の動向にもつねに注視しています。

企業は、将来の活動や行為のなかで費用がより少なくする選択肢を選ぶため、いくつかの行為を数値化して、比較検討する方法、すなわち「費用便益分析」や「費用対効果」などが経営戦略のために使われることが多いです。

フォードピント事件

1972年、フォード車の販売する軽量廉価なサブコンパクトカー、ピントが、追突され炎上、1人が死亡、1人が重傷となる事故が発生しました。

高速道路を走行中のピントが突然エンストして停車したところに、後続車が時速約50kmで追突したのです。

ピントはガソリン漏れを起こし、漏れたガソリンに火が引火しました。

炎上したピントから乗り遅れた運転手が死亡し、同乗者が重度の火傷を負ったのです。

通常、普通乗用車のガソリンタンクは前輪車軸と後輪車軸の間にあり、衝突事故があってもガソリン漏れを防止する配慮がなされています。

ピントは小型の車体にもかかわらず居住空間を確保するために、あえてガソリンタンクを後輪車軸と後部バンパーの間に置くよう設計・製造されていました。

この設計では、後ろからの衝撃でタンクが破損する可能性が高く、開発段階の衝突実験でも、12回のうち11回で発火する結果となり、問題ありと指摘されてきました。

この際、フォードでは設計を改善した場合の損失と受益の計算が行われていた。

追突されても炎上しないための改善策として、タンクにゴム製シートを装着する、あるいはタンクを後部車軸の後ろからその上に移動させるなどがあったが、これらの改善を施すには1第当たり11ドル必要であった。そこで改善にかかる費用として、ピント1台につき11ドルの追加費用で燃料漏れ防止の改善対策を実施した場合の損失を1億3700ドルとした。一方、事故が発生した場合にかかる損害賠償金額を4953ドルとした。

これは事故の発生による志望者は180人と推定し、1人につき20万ドルを支払い、熱重傷者が180人で1人につき6.7万ドルを支払い、炎上車両を2100台として1台につき700ドルの賠償金額を支払うものとして推計された金額でした。

これはピントの追突事故後、フォード社が安全性を改善しないまま量産を開始した根拠として公開した費用便益分析です。

この分析結果では、設計上の欠陥を改善するよりは、事故が起きた後に損害賠償する方がはるかに安価になり、改善対策費用の方がはるかに割高になると見積もっていたのです。

フォード社としては、費用便益分析に基づく合理的な判断であったと主張したかったのです。

技術者倫理

近年、製品の欠陥によって生命、身体または財産に損害が生じた場合、企業の過失の有無を問わず、損害の有無を証明することで、損害賠償を求められるようになっています。

フォードが行った費用便益分析には、当時、批判が巻き起こりました。

人権無視もはなはだしく、悪意に満ちていると批判されたのです。

人命や健康に値段をつけることを不愉快に思う人もいれば、また賠償金額そのものがあまりに安い見積額であると感じる人もいました。

フォード社が安全をなおざりにしたことに対する批判は強かったです。

費用がかかるために、公衆の安全に配慮せず、経営的利益を優先したことに対する非難はやむことはありませんでした。

こうした事件に技術者がどのように関わってきたのだろうか。

技術者は苦悩したと思うのだが、決して経営者の圧力に屈してはいけないのです。

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