中里卓治さんが書いた「下水道の考えるヒント4」から、今回は興味を感じた内容について紹介します。
下水道コンセッションについて
コンセッションとは、料金収入がある公共施設の運営事業において、公的機関が施設の所有権を有したまま民間事業者が当該施設を利用して事業の運営にあたる制度のことです。
コンセッションは、所有と運営の分離という新しい経営形態です。分離することにより、民間企業の経営ノウハウや人材の活用が実現します。
下水道コンセッションにおけるモニタリング
下水道コンセッションにおいて、モニタリングは事業を円滑に進める上で非常に重要な機能です。
モニタリングは、ケースによって色々ですが、管理者が行う「管理者モニタリング」、運営権者が行う「セルフモニタリング」、第三者委員会で行う「第三者モニタリング」で構成されます。
国土交通省の「下水道事業における公共施設等運営事業等の実施に関するガイドライン(案)」によると、モニタリングの対象は、実施契約および要求水準の達成状況や財務状況、改築工事関連、住民苦情などの業務情報など多岐にわたります。
モニタリングの方法は、定期的に流入水質や放流水質、電力使用量、故障修繕の状況等維持管理に関するものが中心に行われていますが、会議体や現地での確認行為や立ち入り検査等です。
システム工学
システム工学的に考察すると、モニタリング(監視)は「対処」、「監視」、「学習」、「予見」という一連のプロセスの一部を構成していて、下水道コンセッションの内外の変化に対処するための引き金と定義できます。
ここで「監視」は、作業環境や組織自身の内部で起きていることなどの現実に目を配ることであり、「監視」の結果は警報、警戒になります。もし「監視」を省くと図の「事実」や「現実」に対して準備なしの「対処」せざるを得ないことになります。
一方、「学習」は適切な事例から「事実」を探り出し教訓を得ること、「予見」は将来起こる「危機」や「可能性」を見出すことです。
そして一連のプロセスの各要素は相互の関連しています。「対処」は「監視」に基づいて行われるし、「学習」がなければ「監視」は改善できず、変化に「対処」できません。
そして「監視」の改善に「予見」を加えると将来の変化にも備えてレジリエントに「対処」することができるようになります。
このようにモニタリング(監視)は、下水道管理者が運営権者を管理・監督するためだけでなく、下水道コンセッションの性能向上、危機の予知、レジリエンス能力の獲得などにも活用できることがわかります。
流入水質や放流水質、電力使用量、故障修繕の状況等維持管理がモニタリングの対象なのであれば、これら例えば数字変化等の過渡現象の究明、また基準値の妥当性評価、目標値との乖離やその原因等、 定量的に個々に起きている事象を深堀して学習し、改善点、あるいは危機の予知予測といった行動に結び付けていく組織的な活動が必要だということです。
これらは個々の能力に委ねるのではなく、組織的に活動することがポイントだと思います。その上では国土交通省のガイドラインで記述している「モニタリングに基づく協議」がポイントになります。
つまり下水道コンセッションの実施契約及び要求水準の達成に加えて「学習」や「予見」につながるように協議内容を拡大することが大切になります。
まとめ
下水道コンセッションにおけるモニタリングはシステム工学的な視点で整理すると、下水道事業者の経営効率化としてとらえるだけでなく、官と民が連携して水インフラの新しい価値、すなわち「危機」や「可能性」を予見する能力を生み出す可能性を秘めています。
下水道管理者は新たな教訓や管理運営方法を下水道コンセッションに組み込むことができる総合的な能力、経験を身に着ける必要があります。
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